サカミチのススメ
今回も、マニアックな話です。
突然ですが、坂道、好きですか?
私は大好きです。
アイドルグループのことではありません。
正真正銘、「坂道」が好きです。
そもそも、「坂道」とは何でしょう?
定義は重要です。
ウィキペディアからの引用で恐縮ですが、坂とは、「一方は高く、一方は低い、傾斜のある道」と定義されています。
あまりにも当然の内容です。
しかし、同じ「坂道」であっても、坂道のある場所、歴史、勾配、蛇行具合、幅員、ネーミングその他の事情により、それぞれに個性があります。
坂道に魅せられた変人、もとい、マニアックな方は意外にも多いようです。
日本坂道学会というものまであります。副会長はタモリです。なお会員は二人だけのようですが…。
ところで、私が坂道に興味をもったのは司法試験の受験生時代です。
私は、ロースクール時代、文京区の目白台に住んでいました。
この場所は、豊島区と文京区の境目で、豊島区側から文京区側へと急勾配で下る坂道がいくつもあります。
自宅の目白台から、市ヶ谷にあったロースクールにクロスバイクで通学する際、いつも通る坂道がありました。
坂道の真下が神田川、芭蕉庵の隣を抜ける坂で、鬱蒼とした木々の間を、階段とスロープで登る坂でした。
ある日、その坂が「胸突坂」と呼ばれていることを知りました。
急勾配で、胸を突くようにしないと登れないから、胸突坂という名称になったようです。
ネットで調べると、胸突坂だけでなく、東京の多くの坂道にはそれぞれ個性的な名前がつけられており、その一つ一つに物語があることに驚きました。
東京23区には、名前のある坂道が547もあるそうです。
さらに恐ろしいことに、「坂道の写真集」まであったのです(狂気、いや狂喜)。
ちなみに私、この「坂道の写真集」、買いました。
「東京の坂」(中村雅夫・晶文社)という写真集です。
この本は、東京の有名な坂道を昭和の時代に撮影したもので、勾配や長さ、幅員などをデータベースとして巻末に載せていました。
それぞれの坂道の場所が付属の地図に説明されていたため、実際に坂道を探訪し、今昔を定点観測する楽しみがありました。
坂道というのは、高低差のある土地を結ぶものですので、山を削らない限り、ずっとそこにあります。
例えば川のように蓋がされたり埋め立てられたりすることはなく、江戸の昔からその場所で坂道として存在していたものが多いです。
したがって、坂道の昔の写真を見て、今の姿との違いを楽しむことができます。定点観測です。
ところで、坂道を観察する際、私なりに5つの視点があります。
引かないで、聞いてください。
1 勾配
坂道のアイデンティティがもっとも現れるところです。
当然ながら、勾配がきついほど坂道の格が上がります。
車の通行が可能な東京の坂道の中で、一番勾配があるのは、豊島区の「のぞき坂」だそうです(後述)。
勾配が急な坂のことを、「激坂」といいます。
その他の激坂として、文京区関口にある鉄砲坂。
都内屈指の激坂です。23区内のスロープ坂の中では勾配が一番急だと言われています。
水平に積み上げられているブロック塀と比較すれば、その急勾配が見てとれます。
2 長さ
坂道は長さも大事です。
あまりに短い坂道だと、記憶に残らず、名前もつけてもらえません。
坂道が長ければ長いほど苦しい思いで登るわけですから、印象に残り、坂道としての存在感は増すでしょう。
3 幅員
幅員が狭い坂道は、それはそれで魅力ですが、狭ければ狭いほど存在感はなくなり、名前もつかなくなります。短い坂と同様です。
したがって、ある程度の幅員、具体的には車が通行できる程度の幅員がないと、坂道として論じる適格を欠きます。
4 曲がり具合
坂道の魅力の一つに、未知なる土地への誘い(いざない)という側面があります。
坂道は、高低差のある2つの土地を結ぶものですから、下から坂道を登るときに「上に何があるかわからない」と楽しみがあります。
そうすると、直線の坂道だと、下から見上げた時点で、上の土地がどうなっているのか予想がついてしまいます。
これに対して、坂道がほどよく曲がっていれば、先の景色が見えないため、期待感が増すわけです。
5 歴史や周辺の環境
参勤交代で大名が通った坂道だとか、幽霊が出る坂道だとかはのエピソードはよく聞くところです。
坂道の形状や、歴史、場所をもとに、個性的なネーミングがつけられている坂道は多くあります。
ちなみに、私が好きな名前の坂道は、「ゆうれい坂」、「おいはぎ坂」、「座頭ころがし坂」、「へびだんだん」などです。
幽霊坂と呼ばれる坂はいくつかありますが、私は目白台の幽霊坂を推します。
目白台運動公園と和敬塾の間にある幽霊坂は今もひっそりとしていてなにか出てきそうです。
東京の好きな坂道 個人的BEST3
1 日無坂・富士見坂
目白台から早稲田方向に下る坂です。
なぜネーミングが2つなのかというと、2つの坂が下から登ってきて、途中で合流するからです(日無坂が富士見坂に合流する)。
左側が日無坂、右側が富士見坂です。
日無坂は階段坂、富士見坂はスロープです。
坂の頂上近辺の勾配はなかなかのものです。
距離もそこそこあります。
2つの坂を写真の地点から一望できるというのも高得点です。
勾配合流地点の民家のいい感じの古びた具合が、坂に彩りを添えています。
富士見坂の名のとおり、以前は晴れた日には富士山が見えたのでしょうが、今は高層ビルの影響で見ることはできません。
東京には富士見坂と呼ばれる坂が複数ありますが、実際に富士山が見える富士見坂は、現在は2つだけです。
2 胸突坂
私の通学路にあったからということもありますが、勾配や周辺環境、曲がり具合など、バランスのとれた優等生(?)の坂道です。
右には芭蕉庵、左には水神社があり、後ろには神田川が流れています。
桜の季節、この坂道を散策して、神田川沿いの桜を愛で、椿山荘でアフタヌーンティなどいかがでしょうか。
3 のぞき坂
豊島区にある、都内屈指の激坂です。
この坂、たびたびテレビでも取り上げられる有名坂です。
下をのぞき見るように急な坂だったことが名の由来です。
明治通りから都電荒川線学習院下駅の筋を入って、1本目を左に曲がると現れます。
明治通りと平行して走る片側1車線道であり、坂の上は目白通りにつながります。
坂の上からは、だいぶ近寄らないと下が見えません。まさしく、のぞき坂。
しかも、坂のてっぺんからいきなり急勾配が始まるため、坂を降りる車はそろそろとスピードを落として坂道を下っています。
スピードを出して下り坂に入ると車体が浮き上がってしまいます。
私の写真では伝わりにくいのですが、実際に見てみると、圧倒されるほどの存在感です。
下側から遠目に見ると、坂というよりも壁のようです。
来訪の際は、上からも下からもご覧ください。
なお、日無坂・富士見坂とのぞき坂の間には、他にもいくつかの坂があります。
少し紹介します。
宿坂。
のぞき坂と平行するもう1本東側にある坂。目白不動金乗院が目印です。
ここの幅員はのぞき坂よりも狭く、左側に歪曲して登っています。
坂自体の長さはのぞき坂よりも長いので、その分勾配は比較的緩やかです。
もう一つ東側に平行して入りくねった坂がありますが名称は不明。
ここは割愛します。
さらにもう一つ東側には稲荷坂。
ちなみに、胸突坂やのぞき坂などの写真に見られるように、ドーナツ状の凹みが施されているコンクリート舗装は激坂の証です。
私はバイクにも自転車にも乗りますが、坂道を堪能するのであれば、自転車での探訪をおすすめします。
バイクや車だと、坂道を登る苦労なくして、さらっと流してしまうからです。
自転車だと、時間をかけて、苦労をして、坂道を体験できます。
まあ、最終的には自転車を押して歩くことにはなるのですが。
以上、坂道総論をお送りしました。
私は、今、鹿児島市に住んでいます。
東京に行くことはほとんどなく、ましてや東京の坂を訪れる時間はありません。
東京に住んでいる方は、いつでも坂道を探訪できるので、羨ましいところです。
鹿児島もシラス台地のため、海側の土地との高低差があり、坂道は数多くあるはずですが、名前のついた坂はそれほど多くないようです。
それでも、歴史のある坂はいくつかあるので、暇を見つけて鹿児島の坂道を探訪したいと思います。